anniversary
久々の休みの日。
夏だということもあって自室にいては暑すぎるということで
は1人図書室に来ていた。
本を読むのが好きだということもあるが大半の理由は涼むため。
部屋にも冷房はあるがやはり図書室のものは格別だった。
静かでもあり心地よい空間でもあった。
だがその場に合わぬ声が入り口付近の扉辺りから響いてきた。
「あ、いたいた!先輩!」
その声の持ち主である藤代は扉から首を少し出し辺りを見回した折、を見つけ瞳を輝かせた。
そしてそのまま図書委員の青筋のたった顔など見ずにに向かって直進してくる。
後から続いた渋沢と笠井が震える図書委員に一礼をして同じくの元へ集まってきた。
「誠二?それに竹巳に克朗まで。揃って何してるの?」
今は気分も良かったのでは優しく皆に問いかけた。
機嫌が悪いときとは雲泥の差がある態度である。
この機嫌の良さに藤代も渋沢もつられて微笑んでしまったのだが笠井だけは同様な行動はとらなかった。
笑いにも2種類ある。
笠井の笑みは他の者とは対照的なものだった。
「先輩を探してたんですよ。子供じゃないんですからうろうろしないでください。」
の方へにっこりと笑みを落とし口を開いた。
そこから出てきたのは優しい口調のきつい言葉。
これにの気分は一気に害され機嫌は見るからに悪くなった。
その証拠に顔には綺麗過ぎるほどの笑みが浮かびその口から出る言葉も先ほどとは全く異なっていた。
「休みの日くらい寮から出てもいいんじゃない?相変わらず人のこと年上だって思ってないわね。」
「思ってますよ。だから先輩って呼んでるじゃないですか。」
「あーもー!!竹巳も先輩も落ち着いてくださいよー。」
刺々しく繰り広げられる言葉。
しかしやはり場所を知ってか声は静かであった。
だがどうしても周りの気温は下がってしまうもので耐え切れなくなった藤代が場にそぐわぬ大声で2人を止めた。
「………で?3人揃って何の用だったわけ?」
その声にようやく我に返ったは気を落ち着かせ再び静かな口調で話し始める。
どうも先ほどから図書委員の目が厳しくあまり大きな声が出せない状態なのだ。
原因は分かっている…藤代だ。
それ故に藤代は笠井によって口を塞がれ代わりに渋沢が口を開いた。
「ああ、とりあえずここに行ってくれ。」
「これ、鍵?何の部屋?」
苦笑を浮かべた渋沢から渡されたのはどこかの部屋の鍵。
しかしどこのものかは全く分からずは問いを投げかけるしか出来なかった。
「キャプテンの部屋っすよ。」
息をするために口を塞いでいた手をのけてもらった藤代が素早く答えた。
それにはなお訳の分からない顔をする。
「未だに事態がよく分からないんだけど。」
「いいから行ってみてくれ。事態はそこにいるやつが教えてくれると思うから。」
もうこれ以上は何も言えないとでも言うように渋沢はから目を逸らした。
そこにいる人物。
渋沢の部屋にいる者など考えなくても分かる。
一体何の用があるというのだろう。
は首を捻りながらも渋沢に礼を言ってから居辛かった図書室を後にした。
言われたとおり渋沢の前までやって来たがドアには鍵がかかっていた。
そして先ほど預かった鍵を使ってみるとカチリと小気味よい音が響きドアが開く。
「入るわよ。亮?いるんでしょ?」
そこから中へ遠慮もなしに入りある人物の名を呼んだ。
ここは渋沢と三上の部屋。
その渋沢がをここに呼んだのだから待っている人物は1人しかいない。
案の定その人物は部屋にいてベッドの方から普段より低い声が響いてきた。
「……よう。」
「人を呼び出しておいて昼寝とは図太い人ね。」
伏せ目がちに出てきた三上には先制攻撃を仕掛ける。
どうせ言わなければ何か言われてしまうのだからやはり先に言ったほうが気分がいい。
それに反して言われたほうの機嫌は悪いようだが。
「お前が早く来ねえのが悪ぃんだろ。さっきまでは起きてた。」
「あたしはすぐに来たわよ。伝言を受け取ってからね。」
「…あっそ。」
まだどこか覚醒しきっていない様子で三上が反論を始めるとが上手く踵を返した。
まだあの3人から伝言を受けて数分。
歩いて来たがそう遅くはないはずだ。
その言葉を聞いてやはり人選ミスだったと大きく溜息を落とす三上に対してクスリと笑みを零す。
「それで何の用だったの?」
「お前本気で忘れてるんじゃねえだろうな。」
「だから何のことよ。」
本日何度目かの確認の言葉が三上の口から出るがやはり
には伝わらない。
身に覚えがないというか何も覚えていないというか。
三上が何を言いたいのかがには全く分かっていなかった。
そのぼーっとしたあまりにも普通すぎる反応に三上の方が疲れてしまった。
「…お前な……後ろ向け。」
やや不機嫌そうな声音だったことからは素直に従った。
こんなときは逆らわない方がいいのは分かっていたし何かこの行動に意味があるように感じていたからかもしれない。
くるりと反転しての後ろで三上が何かをしているのは分かったが部屋の空気で振り向けなかった。
仕方なくずっと前を向いたままじっとしていると首に何やらひんやりと冷たい感触がするものが当たった。
瞳だけを動かせてみると綺麗に光る銀色のネックレスが見えた。
「これ…。」
「やる。ちゃんとつけとけよ。」
それを手で触ってみてその後三上の方へ顔を向けた。
返ってきたのはぶっきらぼうな2言だけだったのだがどこか優しい。
そんな態度にこの突然のプレゼント。
嬉しい。
そう思うのは当然だがにはこんなことをされる覚えがなかった。
「やっぱり忘れてやがる。…今日何の日だ?」
いらつき気味な三上の言葉にはもう1度頭を捻らせてみる。
誕生日……それはまだ先のこと。
何かのお礼……何もあげた覚えはない。
お祝い……お祝いされるような賞など取った覚えがない。
考えても特に思い当たる節のなかった
は空笑いを浮かべそろりと三上を見上げた。
「お前が1ヶ月くらい前から言ってただろうが。だから俺がわざわざこんなもん買いにいってきたんだろ。」
呆れ顔でを見つめる瞳は少々脱力していた。
覚悟していたがこんなときに予感が当たるというのも嫌なものだ。
「あ…そっか。」
その少し後に両手を打ち、はようやく頭の回路が繋がった気がした。
今日は何の日か。
ちょうど去年の今日、が三上と付き合いだしたのだった。
最初はなんとなく軽い気持ちだったがまさか1年も続きこんなに大切に想えるようになるとは思わなかった。
「やっと思い出したのかよ…。」
「ん。まさか亮の方が物覚えがいいなんて驚いたわ。」
「毎日渋沢や笠井やバカ代に言われてたら嫌だって覚えるぜ。」
いい加減耳タコ。
そう呟いた三上はやっとそれから解放されたと大きな伸びを1度だけ見せる。
確かにあの3人に言われるのは少し辛そうだ。
渋沢からは毎日同じ時間にきっちりと。
藤代からは毎日あの大声で何回も。
笠井からは毎日からかわれるように。
想像しただけでも三上の苦労がよく浮かんできては苦笑を漏らした。
その声も三上の耳に入ったのか緩かった腕の力がきつくなる。
「で、お前からのだけどどうせ用意してねえんだろ?」
「……面目ないです。」
不満そうな声だったが仕方がない。
気付いたのはたった今で用意など出来ているはずもない。
「んじゃ命令。これ絶対外すなよ。」
その言葉の最後は掠れの首筋に熱いものが触れた。
銀のネックレスは冷たいのだがその上から押し付けられるような唇は対照的に熱い。
首筋だけなのに身体全てが高揚していくようだった。
唇が離れるとそこには紅い烙印。
自分からは見ることが出来ないが代わりに満足そうな三上の表情が見えたは声を潜めて微笑んだ。
「命令じゃなくても外したりしないわ。でも……了解。」
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<あとがき>
葛葉さん1周年おめでとうございます!
いつもお世話になりっぱなしですのでささやかながらお祝いをv
とか思ってたのですけども皆さん偽者ですー。(汗)
葛葉さん1周年おめでとうございます!
これからも応援してますv
○ひじりさんに頂いてしまいましたvvああもうみかみんってば(何)
きっと憮然とした顔で買いに行ったんだろうなあとか、色々考えて悦に入ってましたvv
素敵なお話本当にありがとうございましたvv