あなたと一緒に居たいから………。
a telling
phrase
夏休みが終わって2学期になってからというもの、
は毎日忙しそうに走り回っていた。
クラスの投票で決まった文化祭実行委員。
1学期からその文化祭実行委員の委員会に出たり、段取りを組んだり。
それなりに進めてきていたけれど、文化祭を3日後に控えた今週が勝負の1週間で。
クラスの準備プラス実行委員長なんて物まで引き受けてしまっている
は本当に大忙しだった。
それだけでも忙しいのだけれど、加えてもう引退したはずなのにサッカー部の後輩マネージャーに慕われ、頼りにされてクラブの方からまでお呼びが掛かる始末。
こんな中でも当然の事ながら普段通り授業は有った。今日からは文化祭準備に授業の方も切り替わっていたが。
という訳でここ何日間か、
は完全に文化祭の準備と授業だけの生活を送っていた。
そんな
の様子が気に入らない人物がひとり、書類に瞳を通している
に近づいていく。
「おい、
」
「ゴメン、亮。ちょっと待って……」
そう言った
の視線は書類に落とされている。
ここ最近ずっとこの調子。
いつもいつも仕事が優先されている。
の様子に三上は小さくため息をつき、
の前の席に腰を下ろした。
そのままジッと
を見つめているのだけれど、見つめられている
の方は一向に気にしていない様子で相変わらず視線は書類に向いたままで。
そんな
の様子にちょっと腹が立って文句のひとつでもと思ったところで
は顔をあげ、にっこりと微笑んだ。
「なぁに、亮?どうしたの?」
大きな瞳をクリッとさせ見つめてくる可愛らしい
の様子に、三上は喉まで出かかった言葉を押しとどめた。
代わりに。
「飯食いに行こうぜ」
文化祭実行委員の準備室。
教室から少し離れたこの部屋まで三上がやって来たのは
をお昼に誘うためだった。
時計の針は既に12時を過ぎている。部屋の中に他の委員達の姿が無いところを見るとみんな食事に出ているのだろう。
三上がこの部屋にやって来たときに3人連れの生徒とすれ違った。
三上の姿を見つけ、軽く会釈をしてすれ違ったあの生徒達もきっと実行委員なのだろう。
「んー、ちょっと無理かな……。ゴメン、亮、他の子と行ってきて」
「はぁっ?」
「だから、食べに出てる時間がね、無いのよ……。だからちょっと無理。ゴメンネ」
すまなさそうにそう答えた
の言葉に三上の表情が険しく代わる。
「時間が無いって、他のヤツは飯食いに行ったんだろ!……お前、昼休み取らねーつもり?」
「だって他の人がご飯食べてる間にやらなきゃ時間が無いんだもん………」
三上の抗議の視線に段々小さくなっていく
の声に三上は大きくため息をつき。
「……解った…」
そう言った三上はガタッと音を立てて椅子から立ち上がり、そのまま準備室から出ていった。
(はぁ………亮、怒っちゃったかなぁ……。そりゃ怒るわよね……。ここ最近ずっと文化祭の準備ばっかりだし………。私だって亮とご飯食べたいのよ………でも………)
三上が準備室を出て行ってから既に10分。その10分間の間ずっと
の頭の中はそんな事がグルグルと回っていた。
書類の内容に集中しなきゃと思うのだけど、頭の中は先程の三上の事が一杯で。
文章を瞳で追っているのだけれど、全然内容が頭に入ってこない。
(全然ダメじゃない、こんな事じゃ……)
は椅子の背もたれに思いっきりもたれ、のびをした後、小さくため息をついた。
机に置かれたコーヒーの入っている紙コップへと手をのばした。が、カップを手にするとそれはもう既に無くなっていて。
そう言えばさっき飲み干したのだという事を思いだし、
は再び小さくため息をついた。
(しょうがない。気分転換も兼ねて買って来よう……)
準備室は4階。
自動販売機が有る場所は1階。しかもこの校舎からは少し離れている。
広い武蔵森の校内じゃこれくらいの距離は当然かも知れない。
本当は買いに行く時間も勿体ないのだけれど、無くなっている、飲めないとなるとより一層飲みたくなる。
かかっても5分程度。
(今じゃなくても、どうせ結局は買いに行くだろうし……)
そう思って諦め、
は席を立った。
と。
準備室のドアが開いた。
視線を向けると三上が立っていた。
その手にはコンビニの袋が提げられている。
「亮……?」
「昼飯買ってきた」
そう言うと
の元まで歩み寄ってきた三上は中身が一杯に詰まって膨らんだコンビニの袋を机の上に置き、机の上の書類を少し端に寄せると中からサンドイッチ、コーヒー、それに
が最近気に入ってよく食べている期間限定のプリンを次々に 出した。
「ここでだったら食えるだろ、飯」
目の前に置かれた大量の食べ物。驚き瞳を丸くしながら
はその食料と三上を交互に見つめ。
「亮、お昼買いに行ってきてくれたの?」
そう言った
はマジマジと三上を見つめた。
三上は自分を見つめてくる
を見つめ、小さくため息をつき。
「忙しいのは解ったけど、飯はちゃんと食え。じゃねーと倒れるぞ」
そう言った三上はドカッと椅子に座り、そっぽを向いている。
それが三上の照れ隠しだというのが
には判る。
「ありがとう、亮。………大好きよ……」
にこっと微笑んだ。
「……んな事知ってる。おら、とっとと食わねぇと時間が無いんだろーが」
言葉はぶっきらぼうだけど三上の優しさが一杯詰まっていて。
そんな三上の優しさが凄く嬉しくて。
はもう一度笑顔を三上に向け。
「うん、食べる!」
そう言って三上と向かい合うように自分の席に座った。
準備のラストスパートが無事に終了して、とうとう文化祭当日。
1日目は学校内だけの公開で2日目が一般のお客さんを入れてという形になっていた。
準備は万全と思っていたのに、実際に当日を迎えてみると矢っ張り微調整や小さなトラブルが次々に起こって。
結果、実行委員長である
はその処理に追われる事になっていた。
校内だけの公開。
一般のお客さんが居ない分、校内の雰囲気はゆったりしている。
も少しは三上と一緒に回れるかなと思っていたのだけど、そんな考えは一瞬にして掻き消された。
(これじゃ、時間なんて取れそうに無いよね……でも、頑張らなきゃ)
そんなことを思いながらトラブルの対応に追われ、
は校内を駆け回っていた。
(……疲れた………)
広い校内を走り回ってようやく実行委員準備室まで戻ってきた
は、ふぅと息を吐いた。
準備室のドアを開けて準備室内に入ると、
は手近にあったパイプ椅子を引き寄せ座ると瞳を瞑った。
(…ちょっと眠い………)
実は昨日の夜、文化祭が上手くいくか心配で気になって、あまり眠れなかった。
結局眠れたのは明け方だった。ようやく眠れたと思ったらすぐに起きる時間になって、眠っていた時間はほんのわずかだった。
文化祭は予想していたより遙かに順調に進んでいる。
明日は一般のお客さんもやって来る。今日のうちにトラブルを片づけて明日に備えなくてはならない。
もうひとがんばり。
『よし!』と自分自身に気合いを入れていると、ガラッと音をたててドアが開いた。
ゆっくりとドアの方へ視線を向けると三上が立っていた。
「あっ、亮!」
入ってきた三上の姿を見つめ、
は椅子から立ち上がり嬉しそうに微笑んだ。
一方、入ってきた三上はというと
の顔を見た途端に苦虫を噛み潰したような表情に変わった。
急に変わった三上の様子に不思議そうな表情を見せた
を見つめ、三上は
に近づくとため息をつき。
「
、お前、あんまり寝てねーだろ!」
直球、ど真ん中。
一瞬のうちに見抜かれて、ズバリ言い当てられて。
は怒られた小さい子供のような表情を見せた。
そんな
の様子に三上は大きくため息をつき。
「お前、頑張り過ぎなんだよ。………倒れたらどーすんだよ」
ぶっきらぼうな言い方だけど三上の心配が一杯詰まった言葉。三上の優しさが
を包み込み嬉しさが込み上げてくる。
ちょっと怒っている様子の三上を
は微笑みながら見つめ。
「あのね……亮に負けないようにって思って」
「はぁ?」
いきなりの
の言葉に三上は訳が分からないといった表情を見せた。
そんな三上を
はふわりとした優しい表情で見つめ。
「亮はさ、武蔵森の10番、司令塔って役目を自分の力で勝ち取ってその後も頑張って、最後まできちんとやり遂げたでしょ。そんな亮を見ていて私も頑張らなきゃ亮の傍に居る資格が無いような気がしたの」
三上の瞳を真っ直ぐ見つめ。
「亮の傍にずっと居たいから……。だから頑張らなきゃって」
そう言った
は少し頬を染め、にっこりと微笑んだ。
三上の瞳が驚きに大きく開かれた。
と。
「えっ…!?」
いきなり腕を引かれふわりと三上の胸に引き寄せられた。
暖かい三上の胸に抱きしめられ。
「………ずっと俺の傍に…ね………最高の殺し文句だぜ……」
三上は力を込めて
を抱きしめ。
「離れるって言っても離さねーよ。だからお前も俺から絶対離れんな!」
耳元で囁かれた言葉。
その言葉に応えるように
もギュッと三上を抱きしめ。
「……亮の言葉も最高の殺し文句だよ………絶対離れないから覚悟してね」
大好きな暖かい腕に包まれて。
しばしの休息を…………。
≪2002.10.12贈≫
【あとがき】
仲良くして下さっている麻生葛葉サマのサイトの 100000hitの御祝いとして贈らせていただきました。 凄いです!100000hitですよ!?ホント素晴らしいですv 葛葉ちゃん。ホントこんな物でゴメンです。 ちっとも御祝いになってないです(滝汗) しかもめちゃめちゃ遅いし……(強打) ホントにゴメンナサイ(汗) 返品受付中ですので……むしろ返品を(切実)
最後に葛葉ちゃん、100000hit本当におめでとうございます!
†Cry For The
Moon† にか
にかちゃんにお祝いで頂いてしまいました。 頑張ってる人の側にいるためには自分も頑張らなくちゃって思いますよね。 みかみんの側にいるために一生懸命はヒロインちゃんがけなげで、 そんなヒロインちゃんを心配しながらも最大限の理解を示して見守ってくれてるみかみんが素敵でしたvv 返品だなんてとんでもないです! にかちゃん、素敵なお話を本当にどうもありがとうございましたvv
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