Punishment
「嫌いじゃないよ」
そう遠回りにしか言えないのは、
あまりに君を想い過ぎて傷つけたくないから。
一方的に大きくなった気持ちをぶつけて、
君に嫌われて失いたくなかったから。
ある意味わがままな僕の気持ち。
「ルック」
「何?何か用?」
突き放したいわけじゃない。
ずっと側にいたいし側にいて欲しい。
それでもそんな気持ちは押し付けにはなってしまうと、
気持ちとは反対の言葉が口から零れ出る。
「………ううん……ごめんね…?」
君はいつもそうやって、
何一つ悪い事はしていないのに僕に謝る。
「別に」
―――別に君が悪いわけじゃないんだよ?
短いそれにこめられた意味は君には届かない。
「ルックは、僕の事、嫌い?」
「……嫌いじゃないよ」
甘い言葉を言えるような、
そんなキャラクターではない事は自分が1番よく知っているけれど、
それでもどうしてこんな冷たい返事しか返せないんだろう。
「じゃあ、ほんの少しでもすき?」
君はそうやって聞き直してくれるけれど。
天邪鬼の塊の僕にはそれでも君には言えないんだ。
「……嫌いじゃないって言ったの、聞こえなかった?」
「………うん……ごめんね…」
君はいつもそうやって、
淋しい瞳をしながらも無理に微笑むんだ。
「嫌いじゃないよ」
―――嫌いじゃないよ。僕は君がすきだからね。
途中で止められているその言葉の続きを君は知らない。
それでも君は微笑んで、
泣き出しそうになるのをひたすら儚げな微笑みで覆い隠して、
懲りずに僕に話し掛けてくれたから、
だから僕はジレンマを抱えて自己嫌悪に陥りつつも、
それでもどこか安心してたんだ。
ただ単に気付かないうちにつけあがっていたのかもしれない。
こんな僕でも君には嫌われていないと。
ほんの僅かでも君にはすかれているのだろうと。
でも、
僕は本当に浅ましい事しか考えていなかったね。
ある時僕は知ってしまった。
誰よりも大事な君をもう他の奴に取られてしまった事を。
軍師の提案で珍しく休みが取れた日、
せめて静かな所で本を読みたいと、
勘に任せて転移魔法で近くの森に移動した。
半分ほど読み進んだ時、
少し離れた所から君の声が聞こえてきた。
僕達の敵と話す君の幸せそうな声が。
「おしごと、いいの?」
「ん?いいって。クルガンが何とかしてくれっからさ」
「また怒られちゃうよ?」
「まあ……その時はその時だよ」
心配している口ぶりだけれど声は嬉しそうで。
「ねえ、シード」
「何?」
「シードは、僕の事嫌い?」
君がいつも僕に聞いていた質問。
「どうしてそう思うんだ?」
「じゃあ、ほんの少しでもすき?」
「当然だろ。くーちゃんがたくさんすきだよ」
「本とに?」
「本とだよ」
風で目の前の葉が揺れた時、
君がそれに対して幸せそうに微笑むのを見てしまって。
その時どれだけ僕が後悔したか、
その時どれだけ僕が君との距離を感じたか君は知らないだろうね。
皮肉だね。
傷つけて失いたくなかったから口にしなかったのに、
それが仇になってしまっていたなんて。
こんな事なら素直に君に言えばよかった。
君を散々突き放して傷つけてしまうくらいなら、
逆の意味の方がずっとよかったに決まってるのに。
でもどれだけ後悔してももう遅いね。
「久し振りだね」
それから数日後に軍主に連れてこられた君はいつも通りに話し掛けてくれたね。
でもいつもとは違って早々と行ってしまいかけて、
僕は慌てて君の腕を引いた。
「………どうしたの…?」
「………いつもは聞くくせに、聞かないわけ?」
いつも僕にぶつけていた質問。
それを口にしなかった理由なんてもう知ってるけど。
君は僅かに困った顔をしつつも口を開いて聞いてくれた。
「ルックは、僕の事、嫌い?」
「嫌いじゃないよ」
「じゃあ、ほんの少しでも、すき?」
「…………ほんの少しなんて言えないくらい君がすきだよ」
やっと言えたね。
驚いた顔をした君は途端に瞳を揺らして俯いた。
「………嫌われてるんだと、思ってたのに……」
その逆だったんだよ。
「………もうちょっと早く…教えて、欲しかったな……」
小さい小さい君の言葉。
その意味が考えなくてもわかって余計に胸が痛い。
「ありがとう」
普段通りに顔を上げて、
泣き出しそうになりながらも微笑んで君は行ってしまった。
もう遅いね。
今更伝えた所で何かが変わるとは思ってないけれど、
それでも君には誤解したままでいて欲しくなかったから。
それが余計に君を傷つける事になったとしても。
「嫌いじゃないよ」
今となっても遠回りにしか言えないのは、
あれからも僕に同じ質問をしてくれる君に自分の気持ちをぶつけない為。
わがままな自分が犯した君への罪に対する、
僕の自分自身への罰にあたる言葉。
○あとがき
ルッちゃん、サイト1周年おめでとうvv
駄文になった上にルックさんの独白ちっくですがお納め下さい。返品可です。