もし、自分が彼女に与えられるものがあるとすれば、それは…
the Forth
Avenue
Cafe
「リドルって凄いのねえ」
いつだって、彼女は無邪気だった。
頭一つ分高い彼を見上げて、いつも笑っていた。
「リドル」
「………」
「私、リドルの事が好きだよ」
「………」
「一緒にいても、いい?」
毎日のように繰り返される言葉。
「………ダメだ」
「どうして?」
「僕が、君を嫌いだからだよ」
毎日のように繰り返される会話。
「わかってるよ」
「だったら、何故?」
「私、リドルが好きだから。好きになってもらえるように、頑張るの」
毎日のように繰り返される笑顔。
「リドルの傍に、いたいよ」
そして必ず最後にそう言って、彼女は微笑んだ。
どんなに突き放しても、
どんなに冷たくしても、
どんなに無視をしても、
どんなに酷い言葉を浴びせても、彼女はいつも彼の傍にいた。
いつもように会話をして、
いつもように微笑んだ。
その度に彼は血が滲むほど、拳を握り締めていた。
例え何年経っても、二人の関係は変わらなかった。
卒業するまで、何も変わらなかった。
卒業して、彼が姿を消すまでは。
真っ暗な部屋の中で、蝋燭の灯りが揺らめく。
「リドル………」
今は行方知れずの彼を想って、毎晩彼女は涙を流していた。
名を呼んでも、彼は決して現れる事はなかった。
「会いたいよ…」
涙は雫となり、頬を伝う。
枯れるほど泣いても、涙は毎日止まらなかった。
彼への想いも、止まらなかった。
「一緒にいたかったのに………」
ずっとずっと、変わらなかった。
「
………」
声と共に目の前に人影が現れた。
蝋燭の火に照らされて、輪郭が浮かび上がる。
「リドル!」
飛び上がりそうになるほど、驚いた。
彼女の記憶に残っている彼よりも、幾分か年齢を重ねてはいたが、
そこにいたのは間違いなく彼女の愛した人。
視界が、涙で滲む。
「私、ずっとずっと………」
彼女の言葉が終わる前に、彼の手がすっと伸びた。
「……!」
彼女の首に、手がかけられる。
そのまま彼は、彼女の細い首をへし折るかのように思い切り絞める。
息が出来ない苦しさに、彼女は顔を歪めた。
再び彼女の瞳から、涙が流れ出す。
「それでも………私は、リドルが好きなの…」
息苦しさに搾り出された、彼女の声。
彼の目が見開かれ、揺れた。
嫌いだなんて、嘘だよ。
本当はどうしようもないくらい、君が好きなんだよ。
そんな言葉でさえ、伝える事ができませんでした。
父親への果てのない憎悪。
穢れた血への止まらない憎悪。
憎むべきこの世界で、彼女は唯一の綺麗なものだったのです。
優しい彼女は、自分のしようとしている事を知れば悲しむでしょう。
優しい彼女は、自分のしようとしている事を知れば苦しむでしょう。
優しい彼女は、きっときっと耐えられないでしょう。
ですから、本当の事を言う事はできません。
本当の想いを伝える事はできません。
愛を与える事はできません。
優しさを与える事はできません。
幸せにする事はできません。
一緒にいる事はできません。
彼女がいつも微笑んで言ってくれたように、自分も彼女の傍にいたかったのに。
もし、自分が彼女に与えられるものがあるとすれば―――
抵抗らしい抵抗もせず、彼女は身を預け微笑んでいた。
彼の目から、揺らいでいたものが零れ落ちる。
そのまま彼女の体は、魂が抜けたかのように床に崩れ落ちた。
そして、彼は火のついた蝋燭を無造作に掴み取ると、床に投げ落とす。
たちまち部屋には火が回り、燃え上がった。
紅蓮の炎の中で、彼のシルエットだけが闇に舞う。
彼は、既に彼女の姿をしているだけの冷たい人形を見つめていたが、
やがてその場に置き去りにして、夜の闇に溶け込んだ。
あれとすれば、それは―――永遠の眠りしかないのです。
本当は自分も彼女と一緒に死にたかったのだと言ったら、彼女は微笑んでくれたでしょうか。
リドルさんの気持ちが切なくてすごく痛いのです。透くん、お祝いくれてどうもありがとうvv