Transient love

 

 

 

「なあ、俺の事すき?」

 

何度も繰り返した質問。

付き合いは長いのに、

その答えを彼からきちんと聞き出せた事は一度もない。

もっとも、

その「付き合い」とはどこから先を指すのだろう。

同じ空間にいるだけ?

それだけならば軽く3年は越えている。

そうではなくて。

自分の指す「付き合い」という言葉の意味は、

そんな浅いものではなくて。

 

「さあ」

 

彼はその答えのみを繰り返す。

時折鬱陶しそうに、

綺麗な顔を僅かに歪めて。

 

「そんな事知って何になるわけ?」

 

全く興味などない様子で。

実際興味などないのかもしれない。

彼と一緒にいるようになってから、

彼と「付き合い」始めてから、

自分ばかり彼に気持ちをぶつけていて、

彼の気持ちの欠片も推し量る事が出来ていない。

それでも彼は嫌がらないから、

心底から嫌われているわけではないのだろうけれど。

 

 

「何かなるわけじゃないけどさ、俺は知りたい」

呆れた、という視線が僅かに注がれて。

「………僕にとって無益だから」

言う価値がない?

言いたくない?

「俺にとっては……大事なんだけどさ」

「…………さあね」

 

 

 

 

「…………所詮気持ちなんて一過性なんだよ」

 

 

 

 

ぽつりと呟かれた言葉。

すぐに向こうを向いてしまった彼の瞳は、

僅かに揺れていて。

 

「……俺の気持ちも?」

 

 

「………生きている限り、人間の気持ちは移ろい揺れるもの。それに」

「それに?」

「………………永遠を知らない者が言える事なんだよ」

 

 

そう。

彼がいくら自分の気持ちを伝えてきてくれても、

彼は大統領の息子。

これから先彼が大統領になったら、

彼は夫人を娶るだろう。

そして彼は死んでいく。

自分よりも先に朽ち果てて、

やがてこの世の根本を築いているものによって喰い尽くされ、

彼はこの世界のどこからもいなくなる。

それがわかっていて、

どう受け入れたらいい?

その時に感じるであろう孤独がこうしてわかっているのに、

敢えて傷つく道を選べと?

 

だから言わない。

絶対に答えない。

永遠を知らないから言える言葉なんて聞きたくない。

 

 

 

「だったら。これならいいか?」

「………っ」

 

強く腕を引かれて、

彼はテラスから飛び降りた。

迫り来る地面に、

慌てて転移魔法を唱えた。

 

 

「…………いきなり何?」

「…………一緒に死んだら俺の言葉信じる?」

 

死ぬかもしれない所だったのに、

彼はただ自分を見つめてそれだけを尋ねて。

 

 

 

 

「………………馬鹿だよ」

 

そう言い残して彼の前から姿を消した。

 

 

 

 

 

ああ全く馬鹿だよ。

そこまで自分を思ってくれる彼も、

その彼に応えない自分も。

恐がっているのは自分。

痛いほどそれはわかっていても恐いものは恐くて。

 

 

「…………馬鹿だよ」

 

 

永遠の枷の上に透明な雫が零れ落ちた。

 

 

 

○あとがき

  シナルクは難しいですね。幸せにしてあげたくても出来ません。

  林城ちゃん、10000hit overおめでとう。とてつもなく遅くなってしまってごめんね。返品可です。                          

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