I.D.〜LOVE ME CRAGY〜
「ねえ……ルックはどうしてここにいてくれるの?」
どこかぼんやりとした瞳で腕の中の少年が尋ねる。
「どうしてって?……それは……」
いつでもうるさい本拠地。
血なまぐさい戦闘。
煩わしい事の連続。
一人で落ち着いて本を読む事すら出来ないような人の多さ。
どれもこれも彼の嫌いな要因ばかりで。
実際なんで自分はこんな所にいるのだろうと有り余る暇を持て余して考えてもみたが結局行き着くのは……
「レックナート様の言い付けだから?」
続きを言わない彼に焦れたのか再び腕の中の少年がつぶやく。
「まあ…そういう事になるね……」
「じゃあ、ここにいるのは嫌なんだ?」
「………まあ、はっきり言えばね」
「それでもルックはここにいてくれるよね……どうして?レックナート様がもし帰って来てもいいですよっておっしゃったら帰る?」
そう必死になって聞いてくる彼の瞳からは大粒の涙が零れていて。
ルックは小さくその涙を拭ってやった。
「・……帰るのかもしれないね。僕は戦いたいわけじゃない。
誰が覇権を握っていようと世の中がどうであろうと誰が死のうとも関係ないしね。君にどうにかして欲しいなんて望んでないし…」
「………うん」
「でも、多分ここにいるんじゃないかな」
「どうして?」
不思議そうに見上げてきた少年にルックは小さく笑った。
「……ユギが泣くから」
それ以外の意味は多分ないよ、と付け足して。
ユギがそんな事を聞いてくるのは彼の付き人が死んでしまってからで。
恐らく、自分の周りにいる人間全てを、ある種疑ってしまっているのかもしれない。
そばにいると固く誓った付き人が姿形も残さず消えてしまった事で……
「……せめて君がちゃんと行くとこまでここにいるから。それが、僕がここにいる理由だよ」
それを聞いて安心したのか、ユギはやがて寝息を立てて眠ってしまった。
「……どうして僕はここにいるんだろうね……」
ユギには答えを見せたものの自分ではどうしてここにいるのかわからない。
自分という人間がわからない。
だからその度にユギを抱いて自己確認する。
ここにいて構わない?
君のそばにいて構わない?と。
それが愛と呼べる代物なのか単なる自己確認に過ぎないのかそれすらもわからなくて。
「……僕らの存在意義さえわからないのにね……」
ユギのソウルイーターが、僅かに輝いていた。