Fly High




どうしてこんなことしちゃったのかな。 目の前に広がるどんよりした空。 見上げても、もといた所からは遠くかけ離れている。 吹き付けてくる風はとても冷たくて。 「……何やってるのかなあ……」 原因なんて覚えてない。 だから、本当に些細な事。 喧嘩というより、自分が気にしただけ。 途中まで追いかけて来てたのは覚えてるけど、それからは? 「……ったあ……」 記憶を探りながら、さっきから襲ってくる痛みに顔を歪める。 それは途切れる事を知らず、慣れる事さえ、出来ない。 長雨と、遠征。 その二つが、二人の距離を更に遠ざけ続けてようやく会えた今日。 久々に会えた事も会って、普段口数が多い方ではないと言われている自分が、 積もりに積もった分たくさん喋ったのが珍しかったのか。 「今日は機嫌がいいんだね」 そう言ってルックに頭を撫でられた。 何だか子供扱いされた気がして。 「ちっちゃい子じゃないもん……」 そう言ったけど、ルックは笑うだけで。 それが酷く、嫌だった。 「や…だ……ルックのばか!」 そう言って逃げ出した。 この城の周りは、そんなに知らないのに。 とりあえず走ってたら、近づいてはいけないと前に聞かされた覚えがある森の中に入り込んでしまって。 棍を持ってないのにモンスターが襲い掛かってくる。 ずっと家にいて他の紋章を外してしまったせいでソウルイーターしかないけれど、 こんな不安定な状態で発動させたらこの森中の生き物の命を奪ってしまいそうで怖くて。 仕方がないからそのまま走って逃げて振り返った時、一匹のモンスターが飛びかかって来た。 一瞬の浮遊感と墜落感。 衝撃と同時に暗闇に落ちて、気がついたら崖下にいた。 身体中の痛みを抱えて。 今思えばなんでもない事。 それはルックの、優しい表現だったのに。 「………死んじゃうのかな……」 ルックのその表現に、本当は自分は嬉しかった事に気づいた途端、どこかで塞き止めていた疑問が一気に溢れ出した。 上の方で鳴っている木の葉の音が、嘲笑のように聞こえる。 自分は恥ずかしかっただけ。 素直に受け入れられなかっただけ。 自分ばかり会えるのを楽しみにしていたようで、淋しかっただけ。 いつのまにか降り出した雨が自分を刺してくるかのよう。 止まる事を知らない血の湖が、身体の下に広がる土に吸い込まれていって。 あのまま一緒にいればよかった。 きっと一緒にいたら、聞けただろう言葉。 冷え切った自分の身体が、いつだって少し強めに抱き締めてくれる、あの温かさを思い出させて。 怖い。 このままここで死んでしまうのが。 怖い。 だって、死んでしまったらもう二度と…… 痛みで動かせない身体。 麻痺し始めた感覚。 怖い。 「………ルック……」 淋しい。 怖い。 冷たい。 ねえ。 「………怖いよ」 酷く涙が零れて。 どうしようもない事実と痛みが、襲い掛かる。 そうしていつのまにか、意識を手放していた。 自分は最後まで泣いていたのか、それすら記憶にない。 頬に触れる体温。 優しく髪の毛を撫でられる感触。 「……ユギ?」 どうしようもなく冷たいあの場所で、ずっと願っていたもの。 「……ルック…?」 目の前には心配そうな顔をした彼がいて。 ぼんやりしてはっきりしない視界でも、それだけはわかった。 「気がついたんだね………」 優しい微笑み。 でも、どうして? 「……崖から落ちたのはわかる?」 小さく頷いた。 あの後、ユギを追いかけ続けていたルックだったが森の途中でユギを見失ってしまった。 随分経って不意にソウルイーターの気配を感じて再び捜し始めた時、酷く不自然に折れた木を見つけて崖を覗き込んだ。 夥しい血だまりの中に倒れていたユギ。 酷く、冷たかった。 「……よかったよ…もう少し遅かったら……」 そう言って、ゆっくり抱き起こしてくれたルックの手が頬に振れる。 冷え切った体にはとても温かくて、あの時の恐怖が涙になって一気に溢れ出した。 「ユギ…?泣いてるの?」 溢れ出していく涙をルックの指が優しく拭ってくれて、 それをもっと感じていたかったから、紋章で癒されているとはいえまだ痛みの残る身体も無視して腕を伸ばした。 「ユギ……」 慌てて支えてくれた腕に、力が入らない腕でしがみついた。 今すぐに抱き締めて欲しいから。 死んでしまう事よりも、離れてしまう事の方が怖かったから。 ルックは震えているユギをしがみついている腕から優しく離すと腕の中にしっかり抱き込んだ。 「……怖かった?」 「うん」 しっかりしがみついて。 「……ルック」 それでも足りないから名前を呼んだ。 「……初めてだね」 ルックが小さく笑って。 自分を抱き締めてくれる腕に、僅かに力が篭もったのがわかる。 「……痛くない?」 「うん」 本当はまだ痛いけど、離して欲しくないから。 「ユギから甘えてくるのは初めてだね」 そう。自分から甘えた事がない。 いつだって、ルックが来てくれるのを待ってた。 ルックが理解してくれるのを待っているばかりで、自分からは何もしなかった。 そうやってルックは、自分を甘えさせてくれてたのに。 「……ごめ…」 「謝らなくていいよ。その代わりに、どうして欲しいか言ってよ」 言葉を遮られて。 「どうして欲しいか、教えてよ」 今みたいに。 一気に顔を赤くして、俯いて。 「………ってして…?」 それはとてもとても小さな声だったけれど。 ルックにそれが届いた証拠に、彼は優しく微笑んだ。 今のままじゃ後悔するのがわかったから。 このままでいたくないから。 辛くて苦しいのがわかったから。 怪我が治るまでに言えるようになろう。 優しい腕に身を委ねて、そっと目を閉じた。

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