城の片隅にあるめったに人が訪れない場所。

忘れ去られてしまった花壇。

そんな所にエンジュは居た。

たまたま通りかかったルックが小さなエンジュの背中を見付ける。

 

 

「……何してんの?」

「花に水をあげてるんだよ」

あいかわらず無愛想な顔をして尋ねるルックに、エンジュは笑顔でそう答える。

「……何で君がそんな事してるの?他の誰かにやらせればいいじゃない」

エンジュの行動が良くわからない、といった感じの言葉が、楽しそうに花の手入れをしているエンジュに向けられる。

「だって楽しいよ?ルックもこっちに来て一緒にやろうよ」

「……そんな枯れそうな花、世話するだけ無駄だよ」

あくまでも淡々と言い放つルック。

「だって、ここってあんまり人が来ないでしょ?このまま放って置いたらかわいそうじゃない」

「……まるで花に心があるような言い方だね」

「花にだって心はあるんだよ。人みたいに。みんなはそれに気付かないだけだよ」

その言葉を聞いた時、ルックは何故エンジュの側にいるのか、わかったような気がした。

 

 

 

 

最初はただレックナートに言い付けられて仕方なく協力しているだけだった。

だが、今は違う。

ルックはその性格から自分から、

そして他人からも接触を避けられていた。

実際、昔戦っていた仲間にも、今共に戦っている仲間にも、それほど親しい者はいなかった。

だがエンジュはルックに対して避けるどころか、こうして親しげに話し掛けてくる。

昔はそれが鬱陶しかったが、今ではこうして自分から話すほどになっていた。

自分でも気付かないうちにエンジュの存在が大きくなっていた。

エンジュの枯れそうな花に対する優しさが、ルックを少しずつ変えていった。

エンジュがゲンカクの息子だからではない、

リーダーだからでもない、

エンジュだから側にいるのだ、そう思った。

 

 

 

 

「ルック、どうしたの?」

「……別に」

そう言ってルックはエンジュに背を向けてどこかに行ってしまう。

「あ、どこに行くの?」

「水、それだけじゃ足りないだろ?」

さも当たり前の事をするかのように言う。

振り返らずにそう言ったのはひょっとしたら照れているのかもしれない、エンジュはそう思ったが小さく「ありがとう……」とだけつぶやいた。

 

 

 

その言葉を背中ごしに聞いたルックは普段見せない微笑をうかべ、水汲み場へと向かった。

枯れそうな花の、そしてエンジュの為に……

 

 

 

 

 

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