Innocent trip
「葛葉さん!」
「え?なあに?」
「前からお聞きしたい事あったんですけど、いいですか?」
「うん?いいよ?」
「じゃあご飯食べながらでも」
突如掴まえられたかと思うともう食堂に向かって腕を引かれている。
小走りに近いエンジュの後を慌ててついて行っていると、
通りがかった前方左斜め45度の角度から何やら視線が。
「あ、ルック。今暇?」
今日も今日とて御機嫌斜めのルックに恐れる事無く軍主は声をかける。
ルックは彼の指先の行方を一瞥して溜息をついた。
「何?」
「あのね、ルックにも聞きたい事があるんだけど、いい?」
「どうせろくな事じゃないだろ」
「あ。そうやって決め付ける……大問題だよ?」
こうして軍主が頑張っている時は大抵ろくな事がない。
しかしそれを知らないらしく、
葛葉はどこか憐れむような瞳でエンジュを見ると無言でルックについてきて欲しいと目で訴えた。
―――どうしてもだめ?
―――ろくな事がないからね。
―――だってこんなに一生懸命なんだよ?
―――だから余計に嫌なんだよ。
―――そんなに嫌がらなくても……ちょっとだけでも、だめ……?
―――………………………………仕方ないね。
君は騙されているのだという言葉は懇願するような瞳の前では無力らしい。
「………わかったけど手短に済ませてよね」
「やった!じゃあ行こう!」
後には溜息が1つ……
「で。何?」
レストランで注文を聞かれた直後にルックは切り出した。
早いところ切り上げなくてはこの小猿は何をしでかすのやら。
「あのね、ルックと葛葉さんにずっと聞きたかった事なんだけど……」
「うん?」
「ルックが葛葉さんの事すきってほんとなの?」
その質問に、葛葉はきょとんとした顔になり。
当のルックは何を言い出すんだ、という憮然としたものに。
「え?違うの?」
「違うのって言われても……」
「だって葛葉さんはルックの恋人なんでしょう?」
―――何処で吹き込まれたんだ、この小猿。
思わず出かかった本音を飲み込んだ。
「僕とルックはお友達だよ?だめなの?」
小首を傾げて葛葉が言えば、エンジュはどこか慌てたような顔になり。
追い討ちをかけるように冷たく見返してやると、
「…………そ、そうなんだ?ごめんなさい、僕の勘違いみたい……じゃあ!」
と逃げ出していって。
「エンジュ?ご飯は?」
1人わかっていない葛葉は不思議そうに首を傾げたけれど。
「別にいいんじゃない?食べないと冷めるよ?」
我関せずと言った調子でルックは昼食に手をつけた。
「結局エンジュは何を聞きたかったのかなあ?」
「さあ……?」
出来たら無邪気なその笑顔で、
軽く否定しないで欲しかった。
気持ちを伝えていないのは自分。
伝えなければ伝わる事はないのはわかっていても、
何処かで知っていて欲しいと願う自分がいて。
「でも、ルックに嫌いだよって言われなくてよかった」
これを過大解釈していいかな?
君がこうやって無邪気にくれる言葉が嬉しいから、
このままでいたいとさえ思う自分。
「そう?」
「うん」
君に今のこの気持ちが伝わればいいのにね。
君がくれる幸せがどれだけ僕を幸せにしてくれているか表現できる言葉があればいいのに。
それは世界でたった1つだけれど、
君がいつか気づいてくれるまでは鍵をかけてしまっておこう。
だからそれまでは友達として一緒にいよう。
友達の座を僕に与えてくれた大事な君へ。
※あとがき
あわわわわ。これのどこが「二人の仲のよさがわかるルク坊」なんでしょう!
修行を積みましょう、自分。