普通に目覚めたはずだった。 目をあけたら見慣れた天井があるはずだった。 それなのにどう頑張っても真っ暗闇で。 指を伸ばして目の辺りに触れて思い出した。 自分は怪我をしたのだという事を。 いつものようにエンジュのおねだりに付き合って本拠地に来て。 一時的に戦況が収まり、 しかしいつ何時何があってもいいようにと実戦経験を積みに新しい所へ行った。 思ったよりも手ごたえがあって、 それなりに怪我もしたせいで回復薬も底をついてきて、 そろそろ帰ろう、という話になっていた時だった。 「何、このモンスター……」 気がついた時には辺りを見た事もないモンスターに囲まれていた。 すぐに応戦を始めたが今まで相手にしてきたどのモンスターよりも強くて。 運の悪い事に魔法の耐性まであるらしく全く手が立たない。 焦りと疲労のために避けられる攻撃でさえも受けてしまって傷だらけ。 「エンジュ!いったん退くぞ!」 とにかく逃げる方向だけのモンスターは気絶させて退却しようとした時、 その中の1匹がエンジュの方に飛び掛って行った。 「危ない!」 「え?」 それは誰の声だった? ざくっ! いやに生々しい肉を切る音が、響いた。 「……葛…葉さん…?」 攻撃を受けるはずだった自分は無事で。 目の前に、自分に背を向けた葛葉がいた。 「……怪我しなかった?」 「葛葉…!」 ルックが珍しく慌てた声で葛葉を呼ぶ。 「………暴走したら…止めてね……?」 その言葉に、ルックは呪文を唱え始める。 同じように、聞いた事もない呪文を葛葉も唱え始めて。 「え…葛葉さん!?ルック?」 「……守りの天蓋」 「冥府」 二人の声が重なった瞬間、 全てを飲み込む闇が葛葉さえも巻き込んで、発動した。 「……気がついた…?」 優しい声が頭上から響く。 「……ルック?」 かたん、と小さな音がして、彼がベットの脇にある椅子に座ったのがわかる。 優しい手で前髪をかき上げられたかと思うと、 そのまま怪我をしている両目に巻かれている包帯の上にそっと手を乗せて、優しさのしずくを掛けてくれた。 「………驚いたよ」 「驚いた…?」 「葛葉が、それを使うとは思ってなかった……」 「だって……」 「そう、使わなければ僕達はここにはいないだろうね。でも、葛葉は……」 君は、自分まで巻き込んだね。 それはどうして? エンジュの前に庇って立ちはだかった君。 君の瞳から、真っ赤な涙が流れていたね。 その時僕がどう思ったか知ってる? 君の願いを知っているだけに、僕はどうしていいかわからなくなる。 「……怒ってる…?」 「……怒ってはないよ…でも」 そのまま、葛葉を腕の中に閉じ込めた。 「………帰ってきてくれて、よかった」 期待してなかった、って言ったら嘘。 僕は君の予想通り期待してたんだ。 ………僕が消え去る事を。 でも思った。 僕はやっぱり、ここにいたいって。 ここにいられてよかったって。 抱きしめられた腕の中はとても暖かいのに。 包帯が、薄紅色に染まっていった。

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