Prejudice against
育ってきた環境が違うんだから、
すき嫌いが違ってたって、
それは当たり前じゃない?
「……食べないの?」
「………」
目の前には可愛らしい器。
黄色と言うよりクリーム色で、
下の方はこげ茶色のお菓子。
スプーンで掬うとぷるんと震える、
名前の由来はまさしくそれから来たのではないかと思われる物体。
「甘いもの嫌いじゃないんじゃなかった?」
「……これだけはだめかなあ……」
かの英雄に嫌われたその可哀想な物体は、
暖かい部屋の空気に包まれて俄かにぬるくなり始めていた。
甘いものは全般的にすき。
すき嫌いはないようにグレミオに躾てもらった。
それでもどうしてもこれだけは駄目。
でも、
目の前の甘いものを極端に嫌う彼が平気で食べているのはどうしてだろう?
「ああ……昔、よく食べさせられたんだよね」
誰に、とは言わないけど。
ユギの友人の、
彼に良く似ているとある神官長の好物はこれだった気がするのは気のせいか。
「だから慣れたんじゃない?」
「ふうん……」
「ユギは?何で駄目なわけ?」
そう言われて初めて、
この物体を食べた事がないという事実に行き着いた。
それはかつての親友が、
グレミオが作ってくれたこれが嫌いだと言って食べなかったから。
他の料理は大丈夫なのに、
これだけは絶対口にしなかったから。
その横でずっと食事をしてきた自分は、
いつのまにか彼に影響されて食べないのが当たり前で、
グレミオもこれだけは作らなくなったから。
「要は食わず嫌いなんだね」
「え?」
彼の声に思考を引き戻されたかと思うと、
スプーンで掬われたそれを食べさせられる。
初めてに近いその食感に驚いたけど、
悪い感じはしなかった。
「………そう悪いものでもないんじゃない?」
「そうだね」
「まあこれ食べなきゃ生きていけないわけでもないけどね」
「うん」
次のひとさじは自分で掬った。
育ってきた環境が違うから、
すき嫌いが違ってたって当たり前。
きっと永遠に食べなかったはずのそれは、
意外に悪くなくて。
そう思えたのは彼のおかげなのかな。
ひとさじ目が1番おいしかったから。
○あとがき
実は実話。私の嫌いなものはプリンです。某パ○テルのなめらかプリンしか食べられません。