A Will

 

 

 

あんなに愛していたのに。

葛葉がいない日々に慣れていくなんて……

 

 

いなくなって初めて知った。

どれだけ葛葉の事を想っていたか。

どれだけ葛葉が想ってくれていたか。

 

どうして一人で逝っちゃったんだ?

 

いなくなってから辛くて涙を流さない日などなかった。

夜も眠れなかった。

それでも人間は単純なもので、

どんなに辛くて悲しい事があってもおなかはすくし眠気だって感じる。

そうしていない事にも慣れてきちゃったのかもしれない。

あんなに葛葉の事を考えない日などなかったのに。

 

 

もう目の前にいないから、

笑った顔も泣いている顔も声も、

ぼんやりとしかわからなくなってきてしまった。

抱き締めていたこの両腕の感触すら。

 

そんな自分が許せない。

会いたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

仕事をさぼって思い出の場所に来た。

葛葉の事を忘れていく自分が悲しくて。

何処までも見渡せるこの丘にずっと座っていた事が多かった。

ただ何をするわけでもなくその空間が大事だった。

 

あの頃の気持ちならば今でも思い出せる。

愛した記憶ならたくさんある。

どうして忘れていくんだろう。

どうして忘れていけるんだろう。

 

自分が憎い。

誰よりも忘れたくないのに。

他の誰かをすきになったりしたくないのに……

 

 

 

――――忘れていいよ?

 

不意に聞こえた彼の声。

目の前にあれだけ恋焦がれていた彼がいた。

 

「くーちゃん……?」

 

手を伸ばして抱き締めようとするけれど空しく宙を彷徨うだけ。

 

――――ごめんね、シード。

 

「何で謝るんだ?俺の方がくーちゃんに謝らなきゃなんねえのに……」

 

――――すごく大事な人が出来たんでしょう?

 

「違……俺がすきなのはくーちゃんだけだ……」

 

――――ありがとう。

 

「怒んねえの?俺はくーちゃんと約束したんだぜ?一生くーちゃんを大事にするって。それなのに俺は……」

 

――――どうして?それはいい事だと思うよ?

 

「何で?」

 

――――本とはね、僕がシードの事いっぱい幸せにしてあげたかったけど…もう無理だから……だから、僕の事は忘れて欲しいの。

 

「忘れたくねえよ……」

 

――――ありがとう。でも、ずうっと僕の事ばっかり考えないで?

 

「くーちゃんは……くーちゃんはそれでいいのか?俺が忘れてっても?」

 

――――…………うん。シードが幸せならそれでいいよ。

 

「…………俺は…俺はくーちゃんに、もう何もしてやれねえのか…?」

 

――――いっぱい幸せになってくれたらそれでいいよ。

 

「淋しくねえ?」

 

――――うん。そろそろ帰るね。

 

「くーちゃん」

また腕を伸ばした。

今度は宙を切らないように周りの空気ごと。

 

「愛してる」

 

――――うん。だいすきだよ。

 

腕の中の葛葉は消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

気が付くと俺は丘に寝転んだまま随分と寝てしまったようで。

あれは夢だったのかと思う。

いや。

確かに葛葉はここにいた。

 

 

何も言わなくてもわかってくれた。

忘れてしまった俺を一言も責めなかった。

幸せになって欲しいと言ってくれた。

そんな葛葉を俺は愛してた。

 

 

心の一番奥の引き出しに、

鍵をかけて大事にしまっておくよ。

でも絶対に忘れない。

顔を忘れても抱き締めた両腕の感触を忘れても、

愛した記憶だけは絶対に忘れない。

これからまた他の誰かに出会って同じようにすきになるのかもしれないけれど、

それでも絶対に忘れたりしない。

 

 

 

ぽたぽたと温かい雨が降り始める。

それはいつか拭った葛葉の涙と同じ温かさで。

まるで彼が泣いているかのようで。

 

俺も泣いてもいいかな?

今日で最後にするから。

 

 

夕方雨が上がるまでずっと彼はその中にいた。

『彼』の涙が止まってしまうまで。

 

 

 

○あとがき

 あぎゃす。密かに温存していたネタその1がついに出てしまいました……

 反則かとも思って使わなかったんですけどね()感情移入しすぎました……

 

 

 

 

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