Far in the distance
朝からずっと雨が降っている。
薄暗い雲が広がるこんな日は、いつだって僕の気持ちは行き場をなくしてしまう。
受け入れてくれる人は、もうどこにもいないのだから。
気づいたら彼の事しか考えられなくて。
周りの音も、
何もかもが別世界のように切り離される。
君の声でさえも。
忘れるのは簡単なようで難しい。
僕が尊敬していた女性は、嫌な思い出は全てプラスに変えて貯金していけばいい、って言ってたけど。
僕にはまだそんな余裕がないのかもしれない。
―――僕にはもう、君がいるのに。
今日は朝からユギさんの家に行って一緒に城まで来てもらって。
特にする事もないから、レストランの窓際でお茶を飲む事にしたけど。
雨の日のユギさんは、遠い。
話をしていても、どこかおかしくて。
返事はしてくれるけど、相槌ばかりで。
だから時々不安になる。
僕の声はユギさんに届いてるのかな、って。
話が途切れた時にユギさんが溜め息をついて。
それが酷く重たくて。
淋しそうに窓の外を見るユギさんが痛くて。
それでも僕には何も出来ない。
―――僕はここにいるのに。
「ユギさん、ユギさん!」
「………え?」
小さく袖を引かれて、初めて呼ばれている事に気がついた。
「………どうしたの?」
今にも泣き出しそうな顔をして見上げてくるから。
手を伸ばして頭をなでて。
わかるんだろうな、と思った。
それでも僕は囚われる。
君がいるのに。
三年前の、あの日に。
「ごめんね?」
ごめんね、君がいるのに。
一緒にいるのに、どうしても駄目なんだよ。
こういう雨の日だけは。
側にいるのは間違いなく君なのに。
どうしようもなく弱い自分。
―――それでも僕は、君に何も言えない。
一生懸命呼んでいるのに、声が届いてない。
どうしても僕を見て欲しくて、袖を引っ張った。
「どうしたの?」
そう頭をなでてくれる手が物凄く優しいけれど。
確かに嬉しいけど、そうじゃなくて。
お願いだから僕を見て?
いつものように、綺麗に笑った顔を見せて?
それは我が侭?
それでも僕には何も出来ない。
触れちゃいけない気がして。
淋しい。
雨の日だけ、ユギさんを誰かに取られている気がして。
伸ばされた指先を迷いながらも繋ぎ返す。
ねえ、僕のユギさんをとらないで?
雨音が、俄かに酷くなっていった。
○あとがき?
悲恋なのかな。
前のサイトでキリリクを頂いた時のものだったり。反響が大きかったんで持ってきてみたり…別名、サボり第一弾。