Imaginary
existence
架空の存在と言うのは、
いつも夢を与えてくれるとは限らない。
本当にいたとしたら、
僕が今1番欲しいものをくれますか?
今日はクリスマスイブで。
城の中が赤と緑と黄色で彩られている。
広い大広間に、
森で切ってきたもみの木を置いてそれに飾り付けをして。
軍師は顔を顰めたけど、
今日ばかりは動じたりしない。
石版の管理人は五月蝿いのを嫌うからか、
はたまた遠い街の誰かに会いに行ったのかいなくなってしまった。
一通りパーティーが済むと、
子どもは早々に部屋に帰される。
難民も移住しているこの城の事、
子ども達の為に誰かがサンタクロースに扮してプレゼントを配る為に。
軍主である自分もその対象であるらしく、
姉が何を貰えるのかとしきりに気にしていた。
彼女が言うには、
サンタクロースを信じる子どもには望んでいるものをプレゼントされるらしいけれど、
自分の望むものは手には入らない。
ただでさえ滅多に会えないのに。
サンタクロースは本当はいないんだって、
その事実を認識したのはいつだった?
毎年じいちゃんがくれたプレゼントは嬉しかったけど、
じいちゃんがサンタクロースの振りをしていてくれているのを偶然知ってしまった時、
酷く悲しかった気がする。
そんな魔法みたいな事は存在しないんだって。
だからかたん、と音がした時、
やっぱり淋しかった。
ちゃんと正体がわかってるから、
欲しいものは貰えないってわかってるから。
「エンジュ」
でも聞こえてくるはずのない声がしたら驚いた。
「シード?」
「おう」
慌てて起き上がると彼がいて。
着ている服に笑った。
架空の人物の赤い服装。
「笑うなよ」
そう言った彼もちょっと笑って。
「サンタクロースからエンジュにプレゼントです」
「何?」
「俺。あ、ちゃんと他にも持ってきたけどさ」
慌てて言う彼にまた笑って。
腕を伸ばしてしがみついた。
「ありがとう、サンタさん」
架空の存在は、
いつも夢をくれるとは限らない。
でも、
彼がサンタクロースだったら、
何でも信じられる気がする。
だから「架空の存在」なのかな。
信じてる子どもには望んでいるものをくれるんだから。
○あとがき
何でしょう。クリスマスもう過ぎましたね。俺もサンタさんは信じてなかったクチです、はい。