Influenza
「あれ……?」
朝が来たのに、
ちゃんと覚醒しているはずなのに起き上がる事が出来ない。
視界がどこかぼんやりしているけど、
それはまだ顔を洗ってないないせいだし。
「くーちゃん?」
なかなか起きてこない彼を気にしたのか、
そういえば昨夜は隣にいたはずなのに姿を見かけなかったシードが部屋に入ってきた。
思考能力まで落ちているらしい。
「くーちゃん…?」
顔を覗き込んだ彼は抱き上げるようにして起こしてくれた。
「………風邪引いた?」
なるほど、だからだるいのかな?
「葛葉様は気管支が弱いんだから気をつけてよ、シード」
前にクレオに言われていた事を今ようやく思い出した。
昨日は少し涼しかったけれど、
彼とくっついて寝たおかげでそれは気にならなかった。
でもそれは自分だけだったようで。
もうちょっと気をつけていたらよかったのに。
家にある薬箱を見てみたけれど風邪薬はなくて。
買いに行こうかと思ったけれど彼を1人で置いておくのは心配だったから。
「それで?」
「いや、俺んち、薬ないんで……」
「で、病人の葛葉ちゃん連れてきたの?」
「いや、くーちゃんを医者に診て貰おうと……」
「自分だけ呼びに来ればいいじゃない」
「………はい」
「シードとは身体の構造が違うんだからね、葛葉ちゃんは」
軍医に彼を診察してもらう為に、
多少無理をして彼を城まで連れてきてしまったらジョウイに怒られて。
「………怒らないで…?僕が、風邪引いちゃったのが、いけないんだから……」
見かねた彼がだるいのを我慢してそう言ってくれたけど、
「シードがちゃんとしてなかったからいけないんだから気にしないでいいんだよ、葛葉ちゃん」
上司からありがたくも冷たいお言葉を頂戴した。
軍医に診察して貰ったけれど、
彼を自宅に連れて帰っていくのはまた彼に無理をさせてしまう。
かといって城にある自室に彼を寝かせておいて執務室で仕事なんて出来るわけがなくて。
「今日くらいいいよな?」
いつもの事だろう、と相棒から呆れた声が聞こえてきそうだけれど。
「………早く治るといいな、くーちゃん」
華奢な彼を腕の中に収めて自分も寝てしまった。
翌日。
昨日葛葉と接触した人間は全て風邪を引いたのに彼だけは元気だったというのは、また別の話。