Is
this love 2
「すきです」
そう言われた日から、頭から離れない。
会議をしていても、食事をしていても、モンスターと戦っていても。
おかげで怪我をして、しょっちゅうシュウに注意をされるが話が半分しか頭に入ってこない。
どうしちゃったんだろう。
そう思うくらい、頭の中が彼の事で一杯になっている。
久しぶりの休暇だからと朝食の後原っぱで寝転がっていると、カミューを見つけた。
―――あ、こっち向いた。
相手は気付いていないようだ。
端正な顔に見とれていると、包みを持った女の子がカミューに近づいていった。
いつもの光景のはずなのに、それを見た途端、ふいに涙が出そうになった。
自分の中に仕舞い込んでいた疑問。
あんなにもてるのに、あんなに可愛い女の子が沢山いるのにどうして彼は自分を選んだのか、という。
比較すればきりがなくて。
―――そうだよ。どうして?
やがて降り出した雨が、自分の気持ちを代弁しているかのようだった。
「どうしたの?何かあった?」
傘も差さずに一人で来たエンジュを家に上げ、身体を拭かせて落ち着いた頃を見計らい、ユギが尋ねた。
「ユギさん……ユギさんにはすきな人いますか?」
いきなりの質問に、ユギは少し驚いた顔をした。
「………うん、いるよ?」
「じゃあ、その人のどこがすきですか!?」
必死になって聞いてくるエンジュに、ユギはちょっと首を傾げて考えた。
「………うんとね、優しい所とか、一緒にいると他の誰が側にいる時より安心できるところとか、
暖かいところとか。あ、たまに笑ってくれる顔が、物凄く綺麗なところとか、かな」
幸せそうに話すユギが、羨ましい。
「……じゃあ、相手はどこをすきになってくれたんだと思います?」
「相手…うーん。それは、僕しか持っていないものがあるからじゃないかな」
「ユギさんしか持ってないもの?」
不思議そうに聞いたエンジュにユギは微笑んだ。
「そう。人には、その人だけが持っているところがあるよね。そういう所かな。
僕には、自分にしかないものっていうのがあんまりよくわからないけど、沢山の人の中からすきになってくれた理由はそれだからだと思うよ。
エンジュもそうじゃない?自分はどうして相手の事をすきになったのかな?それは、その人しかにないところがすきだからじゃないのかな?」
ユギの言葉が染み込んでいく。
「不安なんじゃないのかな。顔にそう書いてあるよ」
「……はい……どうしてなのかなって、不安って言うか、わからなくなって……」
そう言った途端、涙が零れてきた。
「僕、その人がすきなんだけど……でも僕が相手の気持ちに応えたりしちゃいけないんじゃないかなって……」
温かい手が、優しく頭を撫でてくれた。
「そう思ってるなら、相手にちゃんと言わないと伝わらないよ?
エンジュはそうやって思ってるみたいだけど、今まで相手が自分の事どれだけ想っててくれたのか伝わってこなかった?」
頑張ります、そう聞いた日からも特に態度が変わるわけではなかったが、自分が泣きたくなるくらい辛い時には側にいてくれた。
苦しくて泣きつきそうになったら、ちゃんとそれを受け止めてくれた。
わかってなかったのは自分。
拒絶していたのは自分。
それは嘘だったと、裏切られてしまうのが怖かったから?
自分をすきだと言ったのに離れていったジョウイのように……
エンジュが黙り込んだ時、テレポートしてきたルックが目の前に現れた。
「……やっぱりここにいた……赤い奴が、君の事探してたよ」
降って来る冷たい声。
「赤い奴…?」
「カミュー…だっけ?血相変えて聞きに来たよ……多分もう来ると思うけどね」
「カミューさんが!?」
困惑の表情を見せた時、玄関のチャイムが鳴った。
ユギが窓から訪問客を確認する。
「……エンジュ…自分で出て、話しておいで。言わないとわからないよ?」
ほら、と笑顔を見せると、エンジュは躊躇しながらも立ち上がって玄関へ向かった。
部屋のドアが閉まるのを見届けて、ルックが口を開いた。
「……人がいいね、ユギも」
「そうかなあ?ルック、さっきの聞いてた?」
悪戯っぽい顔をしてユギが尋ねる。
「いや?」
ルックはユギの隣に座った。
「……ユギは僕をああいう風に見てたんだね……」
「え?……何か気に障るような事言った?」
不安そうな顔で見上げて。
「……別に……で?不安になってるのは自分の方じゃないの?」
「……うん……」
あまり自分の気持ちを言ってくれないから。
ルックは小さく微笑むとユギを腕の中に抱き込んだ。
「……すきだよ」
―――どこがすきかなんて教えてあげないけどね
そう呟くと、ルックはユギとともにその場からテレポートした。
ユギに励まされたものの、やっぱりドアを開けるのが怖くて。
思い切って開けたら、心配そうな顔をしたカミューがそこにいた。
「エンジュ様……よかった、こちらにいらっしゃったのですね」
心底安心したように言うカミューに、エンジュはうつむきながらおずおずと口を開いた。
「……ごめんなさい………ねえ、カミューさんは……僕のどこをすきになってくれたんですか…?」
ぎゅっと服の裾を握り締めて。
「……私はあなたがエンジュ様だからすきになったんですよ。一生懸命なところや、皆を思いやるところや、あなただからこそ、それら全てがいいと思うのです」
カミューが微笑んで答える。
「でも僕は……女の子じゃないし、可愛くもないんだよ?」
「エンジュ様はエンジュ様でしょう?他にはいりません」
それを聞いたら、収まった筈の涙がまた溢れてきて、気付いたカミューが優しく抱き締めてくれた。
「……僕…でいいんですか?」
しゃくりあげながら聞くと、カミューは顔を覗き込んだ。
「エンジュ様が私をすきでいて下さるなら」
その優しい声に励まされて。
「……僕は…カミューさんがすきだから…一緒にいたいです……」
ゆっくりと、消えそうな声で言うと、カミューが耳元で囁いた。
「ありがとうございます。頑張ったかいがありましたね」
○あとがき
カミュ主なのにルク坊が混ざってるのは、ルク坊を書きたかったから!(をい)
実際自分で書いといてなんですが、自分には相手にどこをすきになってもらえたのかわかりません。
多分それは、相手にしかわからなくていい事なんでしょうけどね?