Confine
いつもの石版の前。
一人でいるはずのルックは、エンジュと喋っていた。
それだけだったらまだよかったんだろう。
ルックのあの優しい顔を見てしまわなければ。
反射的に踵を返していた。
ルックが自分の存在に気づいているのは知っていたけど。
「ユギ」
背中に呼びかけてみても返事がない。
「ユギ」
先を歩く彼の腕を取ったけれど、振り返ってももらえない。
「離して」
「どうして?僕何かした?」
「したから怒ってるんだもん」
思い返せど思い当たる節は一つもなくて。
「……………悪かったよ」
とりあえず謝ってみたけれど。
「何に対して怒ってるのかわかってないのに謝られても嫌だもん」
ごもっとも。
思わず相槌を打ちそうになって留まる。
「ユギ」
腕を引き寄せて自分の方を向かせて。
前髪をかきあげて瞳を覗き込んだ。
「………悪かったよ。あいにく、思い返しても何が怒る原因になったかわからないんだよ。だから僕もどう謝ればいいかわからないよ」
その真摯な言葉と瞳にいつだって僕はどうしたらいいのかわからなくなるのに。
反則だよ、そんなの。
「……………僕が悪いんだから謝られても困るもん」
「どうしてユギが悪いの?」
「…………何でもないもん」
真っ赤になって俯いてしまって。
やきもちなんて認めたくない。
そんな独占欲の塊じゃないって思いたい。
僕は自分だけに向けてくれると自惚れてた自分に怒ってるだけ。
だってそんなの自己中だよ。
「…………悪かったよ」
何も言わなくてもちゃんとわかるよ。
君が僕に対してやきもちを焼いてくれた事。
自己中な感情だって笑うかもしれないけど。
それでも僕は言わないだけで君にそう思ってもらえるのは嬉しいよ。
優しい彼が優しい顔をして何処が悪い?
だから僕が悪いのは明白。
それでも僕は淋しいから。
僕だけのものを盗られてしまったようで淋しいから。
優しい彼は譲ってあげるけど、抱きしめてくれる今の彼は絶対に譲ってあげない。
○あとがき
いやあああ中途半端に……何処がどうなってこうなったんだろう……しかもユギさん独占欲強っ!?
こんな話になるはずじゃなかったはずなのになあ……