tumblin’ dice
「ルック」
「何?」
読みかけの本から目を上げて、
自分を呼んだ彼を見てみたけれど。
「………ううん、何でもない」
「そう」
その返事にまた活字に目を落とす。
「ルック」
「何?」
今度は少しさぼって、
視線は本に落としたまま。
さぼっているのがばれてしまうといけないから、
ずれてもいない眼鏡を少し上げてみたりして本だけに集中していない姿勢を見せてみたけれど。
「…………何でもない」
「そう」
「うん………」
本当は何でもないわけではないのに。
大した用事がないのは本当。
本を読んでいる彼を邪魔しちゃいけないのも、
静かさをこのむ彼の邪魔をことごとくしているだろうのもわかってるのに。
律儀にいつだって返事をしてくれるのが嬉しくて。
同時に彼の声が聞こえないのが淋しくて不安で。
何の目的もなく呼んでいるわけではないのは知っている。
静かさを確かに彼もこのむけれど、
自分とは違って人の声が聞こえなくなると不安になる事も。
でもそれに対して批判も指摘もしない。
彼の不安がそれで少しでも軽減されるから。
そしてもう一つ……
「ルック……」
「…………悪くないね」
「え?」
「………こっちの話」
名前を呼んで貰えるのが本当は嬉しいから。
君の声が途切れると僕だって不安になる事を君は知らないだろうね。
いや、言わない。
言わない代わりにずっと君が呼んでくれる限り返事をするから、
君も僕を呼ぶ事を止めないでね。
○あとがき
もはや何も言うまい(汗)前に同じタイトルで駄文を書いた記憶があるようなないような。気のせいだ……